100万〜150万程度の値札をフロントガラスに貼り付けた、50台ほどの国産中古コンパクトカーたちが、街灯に照らされた国道を見つめるように並んでいた。
そのそばで、社長、部長、営業から事務員、総出で集まっていた。
キーを開ける電子音の後で扉が閉まる音が聞こえた。
営業の森さんが一番奥のコンパクトカーに乗り込んだのだった。
社長が「よーい」と言うと、全員が手の中のコンパクトカーの鍵のボタンに親指を準備した。
そして、各々が順に鍵を開けるボタンを押していった。
ピッと鳴りハザードが一回光る、ピッと鳴りハザードが一回光る、
これがドミノ倒しのように道路から見て右から左へと流れていくのだ。
ドミノ倒しのように見せるにはちょっとしたコツが必要で、
前の人の「ピッ」という音を聞いてから次の人がボタンを押していたのでは、脳と体の伝達信号の都合上、間が空きすぎてしまうのだが、
鍵を持った手を下げた所を起点とし、前に突き出し、それからボタンを押すという動作を基準とし、前の人が手を突き出すのが目に入った時点で、同じく動作に入ることで、音とハザードは見事に右から左へと流れていくのだ。
あっというまに、森さんの乗ったコンパクトカーまで流れていった。
このスムーズな光の移動は間を置いて、最後に強烈な閃光を誘発した。
森さんがハイビームを点けたのだった。
車50台も向こうだと、森さんの顔はほとんど見えなかった。
エンジンがかかる音の後で、森さんを乗せたコンパクトカーは道路を走り出していった。
森さんが再就職先を見つけたかはわからないが、前向きな人生の新たな一歩になれば幸いだ。
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