2013年11月29日金曜日

天狗

夕方、川に着いた私はさっそく日が暮れる前に夜の焚き火にむけて燃えそうな木を探した。
川原のゴツゴツした足下にくわえて日没とともにどんどん暗くなる視界で「木」を探すことは、ある種の狩りのような難易度があった。
 同じ所を行ったり来たりしては、去っていく団体の跡地に目を光らせた。そこには燃えかけの木、余った薪がある可能性があった。
しかしながら、落ちているものに必死に食らいつくというのは、
一見、ゴミ拾いにも見えなくもないが、やはり、一度つかんだりした木を「これは燃えそうにない」と元に戻す様はホームレス的だった。

そしてありとあらゆる燃えそうな木クズは集められた。
新聞紙に火をつけ、小さな炭になった木から少しずつ燃やした。
落ちていた段ボールであおげば炭はオレンジ色になり、数十秒後、何かのタイミングで魔法をかけたように一気に炎が上がる。
焚き火というのはとにかく空気を送ることが重要だ。
それからどんどん木を燃やした。

「ああ!」

背後から声が聞こえた。
老人のような枯れたガラガラな声だった。
暗闇を振り返ると、私より少し大きいシルエットがあった。

「はい?」

「わしの!」

シルエットの顔がたき火に照らされた。
鼻が異様に長かった。

「何がですか?」

「わしの木」

鼻の長いおじいさんは火を指差して言った。
いくら拾ってきた木とはいえ、誰かの木を拾ったつもりはなかった。

炎を見つめる鼻の長い老人の顔は真っ赤だった。
怒ってるからではなく、塗ったような赤色をしていた。
私はようやくそいつが天狗だと気がついた。

天狗は炎の中に何かを発見すると、慌てて燃える木々の中の一本を掴み取った。
それは落ちてる木の中では一番長く、たしかに私自身、拾ったときにうれしかった木だった。
木の棒は真ん中あたりが黒く焦げ、そのふちがオレンジ色に光り煙りを上げていた。

「あ、これなら、なんとか、、」

と言いながら天狗は木の棒を四方あらゆるところから入念に確認していた。
私はよくわからないけどその焦げてしまった木の棒が大丈夫だといいなと思った。おそらく責任は取れない。

「ああ、やっぱダメだ!」

天狗は言った。
天狗はその場から動こうともしなかった。
私はこいつの顔を見てて、ビーフジャーキーを持ってきていたことに気がついた。
カバンからビーフジャーキーを出し、それを天狗に渡した。
天狗はそれを鼻にこすってその匂いを楽しんでいた。
しかし、ビーフジャーキーのパッケージに自分と同じような顔を見た天狗は慌ててビーフジャーキーを投げ捨てると、逃げるようにして暗闇へと走っていった。
天狗の肉が干されたものだと思ったのだろう。
私は助かった。

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