まだまだ残暑が残るなか例年とおりエンペドクロスは9月の最初の月曜日に降臨した。
中途半端な大きさの影が地上を覆った。
上空には絵に描いたようなUFO。
人々は着陸を見守っていた。
地上から3メートルというところまでくると、窓から白髪の長髪の老人が真剣にUFOを操縦する姿が見えた。
エンペドクロス自らが運転していた。
着陸するとエンペドクロスはギアをパーキングにいれたかのような動きをするとすぐにドアを開け、まるで衝突してきた後続車につめよるかのような勢いで飛び出てきた。
エンペドクロスは全身を白い布で覆っているような格好をしていた。
「はい、今年も来たぞ」
そう言ったタイミングとUFOのドアを閉める音とかぶったために聞きずらかったが、右手を挙げたそのポーズのおかげで雰囲気は伝わった。
ここに集まっている人間はエンペドクロスフリークなわけで当然みな拍手と歓声で迎えた。
「今回教えてやるのは、」
人々は静まりしっかりと聞こうとした。
「洗剤ってあるだろ?あれは実はいくら薄めたってその効果は変わりない」
エンペドクロスは「変わりない」の部分で言うべき事が終わりとわからすために、言ったあとに「どうだ?」という表情で180度を右から左へとゆっくり見渡す仕草をした。
「おい、聞いたか?」
「まじか」
「あらま」
エンペドクロスはその情報にざわざわする人々を満足そうに見ていた。
「たしかに、私、洗剤は薄めて使ってるけど、全然変わりないわ」
「私も」
「私も」
ご婦人方が恥をすて自らの体験談を言い合った。
後方のカフェの前あたりの男がひとり険しい表情をしていた。男は洗剤屋だった。
「もう洗剤買わないわ!私、おもいきり薄めるんだから」
一人のご夫人が言った。
「私も」
「私も」
人々は歓喜でわいわいしていた。
「おい、このじじい!そんなこと言いやがったら商売になんねえだろうが!」
洗剤屋はエンペドクロスに向かって叫んだ。
わいわいしていたのが止んだ。
エンペドクロスは相変わらずにやにやしていた。
「もうひとつ教えてやろう、カルピスもまた同じだ。」
エンペドクロスがそう言うと人々はよく考えもせずに大喜びした。
エンペドクロスは満足そうにあたりを見回した。
「そんなことないわ」
若い女の声が響いた。
長沢まさみだった。
「みんな、よく考えて、カルピスを薄めすぎたら当然、味が薄くなるでしょ?」
人々はたしかにそうだという反応をみせた。
「そこからじゃなくて」
エンペドクロスはしたり顔でそう言うとUFOに乗り込んだ。
あの去り際の一言の後、静まり返ったがエンペドクロスがスベったとは私は思わない。みんなあのCMを知らなかっただけだ。
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