2013年11月29日金曜日

天狗

夕方、川に着いた私はさっそく日が暮れる前に夜の焚き火にむけて燃えそうな木を探した。
川原のゴツゴツした足下にくわえて日没とともにどんどん暗くなる視界で「木」を探すことは、ある種の狩りのような難易度があった。
 同じ所を行ったり来たりしては、去っていく団体の跡地に目を光らせた。そこには燃えかけの木、余った薪がある可能性があった。
しかしながら、落ちているものに必死に食らいつくというのは、
一見、ゴミ拾いにも見えなくもないが、やはり、一度つかんだりした木を「これは燃えそうにない」と元に戻す様はホームレス的だった。

そしてありとあらゆる燃えそうな木クズは集められた。
新聞紙に火をつけ、小さな炭になった木から少しずつ燃やした。
落ちていた段ボールであおげば炭はオレンジ色になり、数十秒後、何かのタイミングで魔法をかけたように一気に炎が上がる。
焚き火というのはとにかく空気を送ることが重要だ。
それからどんどん木を燃やした。

「ああ!」

背後から声が聞こえた。
老人のような枯れたガラガラな声だった。
暗闇を振り返ると、私より少し大きいシルエットがあった。

「はい?」

「わしの!」

シルエットの顔がたき火に照らされた。
鼻が異様に長かった。

「何がですか?」

「わしの木」

鼻の長いおじいさんは火を指差して言った。
いくら拾ってきた木とはいえ、誰かの木を拾ったつもりはなかった。

炎を見つめる鼻の長い老人の顔は真っ赤だった。
怒ってるからではなく、塗ったような赤色をしていた。
私はようやくそいつが天狗だと気がついた。

天狗は炎の中に何かを発見すると、慌てて燃える木々の中の一本を掴み取った。
それは落ちてる木の中では一番長く、たしかに私自身、拾ったときにうれしかった木だった。
木の棒は真ん中あたりが黒く焦げ、そのふちがオレンジ色に光り煙りを上げていた。

「あ、これなら、なんとか、、」

と言いながら天狗は木の棒を四方あらゆるところから入念に確認していた。
私はよくわからないけどその焦げてしまった木の棒が大丈夫だといいなと思った。おそらく責任は取れない。

「ああ、やっぱダメだ!」

天狗は言った。
天狗はその場から動こうともしなかった。
私はこいつの顔を見てて、ビーフジャーキーを持ってきていたことに気がついた。
カバンからビーフジャーキーを出し、それを天狗に渡した。
天狗はそれを鼻にこすってその匂いを楽しんでいた。
しかし、ビーフジャーキーのパッケージに自分と同じような顔を見た天狗は慌ててビーフジャーキーを投げ捨てると、逃げるようにして暗闇へと走っていった。
天狗の肉が干されたものだと思ったのだろう。
私は助かった。

2013年11月22日金曜日

一週間はあっという間。



会えば誰もが一週間が早いと言っていた。
一人くらい「長い」という人がいてもいいものだが、誰もが「早い」と言っていた。
もしもそれが気のせいではなく、事実として一週間が本当に早かったとしたら、それはどうやってわかるのだろうか。
もしかしたら「1分」が早くなっていたりしないだろうかと考えた。
そして、それを確認するためにはすべての時計を信用することはできない。
これは何かしらの陰謀なのだ。
そこで私は学生時代の同級生「刻谷時文」のことを思い出した。
時文はかつてストップウォッチを10秒で止めるゲームで確実に10秒をたたき出していた。

「もしもし、おれやけど」

時文と話すときは関西弁だった。

「おお、久しぶり、久しぶりちゃうわこないだ会うたな」

時文とはつい先週偶然にもお茶の水のCD屋で遭遇していた。

「そうやで、あれ一週間前やで」

「一週間前やな」

「どう思う?」

「何がや?」

「一週間前という事について」

「何を言うとんのや」

「あれは一週間前だったという感覚は確かなものか、という事や」

「わけわからんわ、どないしてん?」

「最近、一週間が早いと思うねん」

「そらそういうときもあるがな」

「いやいや、そういう事じゃなくて、マジで」

「マジでってどういうことやねん、そら普通に24時間が回っとるやろ」

「そこが怪しいと思うねん」

「怪しいもくそもあるかいな」

「そいでな、おまえに一分を計ってほしいねん」

「何の意味があるんや、時計みたらしまいの話しや」

「あかんねん、陰謀で全部信用ならねんて」

「なんでやねん、もう切るで、あほらしい」

「たのむわ」

「めんどうやわー、一分て、60秒やろ?絶対ズレるわ!」

「じゃあ、いまからな」

「ちょっとまてや、ほな、そのわしの計った1 分が正しいかどうかはどうやって判断するんや」

「それは、もうそれがそれなんやわ、それが正しいんやわ」

「ほんまかいな、知らんで」

「はい、よーいスタート」

私は壁に掛かった時計の秒針が12を指したところから合図をした。

「ストップ」

時文が言った。

「もう?」

私は驚いた。
時計の針はまだ30秒を示していたからだ。

「あかんか?」

「いや、ええ、ありがとな、またな!」

私は時文に時計が示した時間を言わなかった。
きっと30秒早い事を言えば時文は自分が間違ってると思うだろう。
時文にはその能力に自信を持っていてほしかった。
私が信頼できる時計の結果は一分が30秒だった。
つまり、実際は倍の時間が経っていたというのに、時計の上では半分しかたっていないようにすりこまれていたのだ。これでは体感速度だけが早く感じるわけだ。

私が一週間だっと思っていた日々は実は「二週間」だったのだ。

「二週間は長い」

これが私の近頃の時間経過の感想だ。
「一週間」については何も思わない。



2013年11月20日水曜日

女子地球




女子地球

「そろそろみんで集まって「会(カイ)」しようよ。」

「そうね、久しぶりに「会(カイ)」しましょ。」

「じゃあ私の家はどうかしら?最近、料理にハマってるの」

「えー!サチエが料理?ちょっと、「力(リョク)」上がったんじゃないの??」

「じゃあ、ミキとヨッシーに連絡しとくわね。」

以前まであらゆる言葉のあたまに「女子」がついていた。
女性の何かしらのスキルを「女子力」と呼び、女性ばかりが集まり食事や酒を飲む事を「女子会」、そこでの会話を「女子会話」、、とは言わずに「ガールズトーク」と呼んだ。

しかし、いまやそれに呼応する「男子」が存在しなくなったために、「女子」をつけることが省略されるようになった。
様々な「女子」というジャンルが確立されたが、「女子花火大会」の存在を知ったある夏、私はさすがにどうかしてると思った。
それは、なんでも会場をピンク色に統一し、化粧室には無料で試せる化粧品、屋台には美容効果のある料理が並び、あたりはアロマの香りが漂うとのことだった。

「女子」は大きなマーケットだった。
そして女子のすべてにおいて「女子」にしたいという欲求の果てに、とうとう女子だけが住む「女子地球」が造られ、そのイデオロギーは否応無しにすべてに作用することとなり、最終的に「女子」をつける必要がないということにおちつき終焉した。

ちなみに女子地球の大気には「女子酸素」が豊富に含まれているのだが、それは彼女たちが地球(いまや「男子地球」、、、とは言わないが、、)に住んでいたときに彼女たちの間で大ブレークしたスプレー式のピンク色の缶に入ったアロマの香りがする人為的に造られたスペシャルなO2で、女子がこぞって四六時中顔の周りに噴射したそれは驚異的な売り上げをみせた。
そしてその製造元の「Girls Talk Inc.」の莫大な資本が「星」を造った。




2013年11月7日木曜日

テントサッカー

さっそく私はコールマンのドームテントを片手に新しい学校のグランドを見ていた。
キャプテンスタッグの青いテントが見えた。
私はすぐに、チームの「サッカー」うんぬんよりも、まずそのテントの「はり」がなっていなかったことに絶望した。

「ちょっといいかね」

私は準備運動中の部員の輪に割って入った。
テントに近づくとフライシートの周りにロープさえついていなかったことに気がついた。

「このテントをはったのは誰だね?」

学生たちは突然の侵入者にとまどっていた。

「それはいつも練習前に僕ら全員でやりますけど」

キーパーにうってつけな小デブが口を尖らせて言った。

「フライシートが全然はれてないじゃないか」

何を言ってるのかさっぱりわからないという様子だった。

「別にキャンプやろうってわけじゃないんだらいいでしょ、おじさん」

短い金髪がスパイクの紐を結びながら言った。

「私がコーチになったからにはそんないい加減な事は許さんぞ」

私はずっと持っていたテントをようやく地面に放り投げた。
乾いたグランドから砂埃が舞った。

「よし、金髪、これを組み立ててみろ」

金髪はテント本体を広げると、ポールを手早く一本に組み立てるとテントの対角線に配置し、あっというまに最後にフライシート張りまでやってのけた。

「ペグはどうします?」

「よし、これでいい、それから、お前らのシュートの弾道が少し高すぎる、もっと低く速い球を意識しろ。そんなんじゃテントの中に入らんぞ」

私は内心、金髪のスキルに驚いていた。

「さっそくやってますな荒井君、どうだね?」

いつのまにか校長が立っていた。

「まったく、なってないですよ」

「はっはっはっ、厳しくやっちゃってくれ」

「あの金髪の彼はなんですか?」

「ああ、やはり気がついたかね」

「あれほど手早くコールマンのドームテントをたった1人で組み立てる高校生なんて見た事がないですよ。」

「彼は小さい頃から両親が共働きでね、テントを組み立てては日が暮れるまでテントの中にいたらしいんだよ」

「なるほどテントは友達ってわけですか。」

私はこのチームなら日本一もまんざらではないと思った。

クローン運転士

電車が遅れていたが、遅延の表示もアナウンスもなかった。
「電車がまいります」とだけアナウンスがあり電車は10分遅れでやってきた。
いつから遅れた電車の怒りの矛先が直接その電車へと向けらるようになったのかはわからないが、相変わらずホームで待っていた人々は電車が見えはじめると「おせえよ」「遅れてるとか言えや」と罵声を浴びせはじめた。
私は休日にちょっと買い物に行くだけだったからそこまでイライラする必要はなかった。

「なぜ自分ばかりが責められないといけないのか」
電車は電車なりに理不尽に感じているだろう。

かつても遅延の怒りの矛先は運転士へと向けられていたが、それは感情のある生身の人間・運転士だった。
次第に人々の非難に耐えかねた運転士が次々と退職するという事態におちいり、運転士がいなくなっていった。
それどころか多くの退職後の運転士はPTSD(心的外傷後ストレス障害)と診断された。
それから、電車は自動運転化となり運転士の必要なかったのだが、人間不在になったその遅延電車に予定通りに事が進まなくなった怒れる人々が傘でキズをつける、空き缶を投げつけるなどの横暴が目立つようになった。

そこで2062年、作り物の運転士を電車に搭乗させることとなった。
無感情でもその電車に人間が乗っているほうがいいということでクローン技術から生まれた運転士がいわばクレーム処理を請け負ったわけである。
たとえ悪びれる様子も無い無表情なクローン運転士でも、不思議と人々は手を出す代わりに罵声を浴びせる程度にとどまり、このクローン運転士は功を奏したのだった。


「ッゲン」
私の目の前で電車の扉が開こうかというとき、何かがぶつかる大きな音がした。
となりの扉の窓ガラスに見事なひびが入っていた。
中年のスーツを着た男が手に持った傘は見た事のないような曲がりかたをしていた。それでぶっ叩いたに違いなかった。
異常な音に気がついたのかクローン運転士が運転席から出て来ると、ゆっくりと車体を点検してまわりだした。
こんなときクローン運転士がどんな反応をするのか見当もつかなかった。
ひびの入った扉のガラスを確認したとたんにさっきまで魂のぬけていたような目に力が入り、殺気だった顔で辺りの人間を見渡した。
私はその顔をどこかで見たことがあると思った。
結果的に生身の人間最後の運転士となり、その後やはりPTSDによる奇行の末自殺した、10回言えば「ノラジョーンズ」に聞こえるあの野良順を思い出した。
10年前、私が大学の講義に向かう朝、30分遅れの電車に私も例外ではなかったが人々は怒り狂い何かのデモのようになっていた。
しかしそんな我々を迎え撃つかのように運転席の窓から運転士が身を乗り出し電車はやってきた。
右の黒目は右下へ、左の黒目は左上へ、口は半笑いで、左足を窓枠にかけ、右手の中指を立てるという常軌を逸したふるまいで、左手に持ったペットボトルの水を口にふくむとホームの人間たちに噴きかけ、「ガタガタうるせえぞコラ!」とぶちまけた、あの野良順と同じ狂気がこのクローン運転士にみちていた。

インドマグロ山本

山本はずっと泳ぎ続けていた。 
それでもその丸い目は一切の疲労を物語る事なく、つい5秒前に泳ぎ始めたかのようだった。 
前方からイワシの大群がやってきていた。 
山本の丸い目がそれを認識し、脳にどのような指令をだしたかはわからないが、そのイワシの大群の最前列、上から39番目に青田ヒサミツがいたことには気がつきようがなかっただろう。 
青田ヒサミツも山本の存在を「大きな黒い陰が前方からやってきた」くらいに思った程度だろう。 
山本と青田の魚群はお互いのペースを乱さない程度にすれ違った。 
これが山本と青田の最初で最後の出会いだった。 
山本は目の前の食べられそうなものに食いついた。 
しかし口に違和感を感じると、上へと引っ張られる力を感じた。 
山本はこれまでの冷静な泳ぎから一転、急に暴れ始めた。 
なぜ暴れたかといえば、いつもと違う違和感を感じたからというだけで、水上に上げられ解体ショーをされ、格安で酢飯の上にのせられ回されるからという事を知っていたからではなかった。 
「いつもと何か違う」そんな感覚だけが彼らを本気にさせるのだった。 
山本は徐々に上へひっぱられる力に導かれ、その今までと何ら変わらないフォルムの丸い目は、余裕げに泳いでいたあの丸い目ではなくなっていた。 
山本を導いたその先には船があった。 
乗組員がモリを山本に突き刺した。 
流れ出た血で海がにごった。 
奇しくもそのすぐ下をウミガメの緑川が泳いでいた。 
緑川はこの広い海の中で山本と毎日のようにすれ違っていた。 
山本の血の中を泳ぐ緑川が
「太陽が雲で隠れて暗くなったのか」 
くらいに認識したのなら幸いだ。

くまのバーリー

今日もバーリーはどこへ行くでもなく、うろうろ、うろうろとしていました。 
一歩一歩、雑木林の湿った土の上をずっしりと跡をつけ、ただただ進むのでした。 
バーリーはどこへ行くでもないのに、まるで行き先があるかのように前だけを見ていました。 
目の前を飛ぶ虫にはまるで無関心で、それはもしかすると見えていないのかもしれませんでした。 
次第に川の音が聞こえてきました。 
バーリーはそのまま川の方へと進みました。 
足下が土から石に変わったせいか、足下が少し滑りましたが、バーリーはな
んの変わりもなくひたすらまっすぐを見つめ進みました。 
バーリーには人間のように、滑って恥ずかしいとかそういう感情がないのでしょう。 
「ズバシャシャーン」 
バーリーはそまままの流れで、一瞬の心構えもなく、川の中へ入っていきました。 
すると、川の中でのバーリーは少し、ワイルドな動きをしました。 
バーリーなりに水中という事にテンションが上がったのでしょう。 
いや、もしかすると、水中に入るつもりなどなかったのにもかかわらず、いつもと違う感じの状況に陥り、言葉にならないような、人間で言うならば「冷たい」という驚きかもしれません。 
なんらかのタイミングでバーリーは川から出ました。 
どこへ行くでもないのに、それなりに「もう川の中は結構だ」そう思ったのでしょうか。知りませんが。 
再び、木の生い茂った少し暗い林の中へと進みました。 
途中、くまのヘンリーが遠くにいるのをバーリーが確認したかはわかりませんが、バーリーは急に進路を右に変えました。 
ヘンリーのことが嫌いとかそういう事ではありませんでした。 
というより、目の前の生き物が、ヘンリーだという認識はバーリーにはありません。 
すると今度はくまのエイミーとその息子が向こうからやってるのが見えました。 
道は一本しかありませんでした。 
エイミーはバーリーに気がつき足を止めました。 
もちろんエイミーにも目の前のやつがバーリーだという認識もなければ、
バーリーの方にもエイミーだという認識はありません。 
お互いに「何か動くものが正面にいる」くらいには思う所があったのか、生き物としてしばらく見つめ合っていました。 
するとバーリーが「グルルグ」みたいなことを言うと、エイミーも「ガガガ」みたいな事を言い、急にバーリーはまっすぐ走り出し、エイミーたちを追い越しました。 
エイミーたちも同時にまっすぐに走り出しました。 
お互いに何か用事があるわけではありません。 
ここまで、だいたい1時間の出来事です。 
バーリーにとって「生きる」意味は如何に。 

デジャヴュー

1 最近、痛くてさ、(頬をさする) 

2 ああデジャヴ? 

1 デジャヴじゃねえよ、言うならまず「虫歯?」だろ、なんでデジャヴと思ったかな。 

2 いや、何にでも使えると思うんだよね、デジャヴって。 

1 「使える」の意味わかんねえよ、大概違うからね、そうないからデジャヴは。 

2 けど、そう言っとけば何かと便利なんだよね。当たり外れ無くて。 

1 お前の日常会話観を疑うわ、正解だすのがそんなに大変か。 

2 いい天気ですね?って言われても大体は「デジャヴですかー」って言うもん。 

1 なんだその返し!その方が面倒だろ、そこは天気よければいいって言えばいいだろ。 

2 いや、難しい、だからデジャヴって言っとけば間違いない。 

1 なんでだよ、ほかにあるだろうよ。デジャヴって「経験したことがないのに、経験したことがあるように感じること」だからね。知ってます? 

2 何にでも使えるじゃないですか。 

1 使えるってのがわかんねえな、ちなみにさっき俺、完全に「痛い」って言ってたからね、まず経験してるし、かつて経験したことのある痛みなら、とっとと虫歯治しとけって話しだから。 

2 じゃあいろいろな場面で使えるってのを証明するわ、何か適当にやってよ。 

1 適当にってなんだよ。 

2 じゃあ、誰かを説教してて、もう罵倒しまくって。お前が上司で部下を説教してるていで。でそこに同期のおれがやってくる設定ね。 

1 何だそれ、しかたねえな、「お前はこんなこともできないのか!小学生でもできるぞ!」 

2 おいおい、どうした?デジャヴ? 

1 意味わかんねえよ、そこじゃねえだろまず聞くのは、散々通り越したあとだよねその疑惑は。まずは「何で怒ってるの?」とかだろ。なんで「怒った事ないのに前にも怒った事があるかも」って事を気にしてるんだよ俺は。 

2 それにさ、もし前にも怒ったことがあったなら、そいつ相当バカだな。 

1 うるせえよ!「それにさ」じゃねえよ、何でおまえもこっち側なんだよ、 

2 いやおれが撒いた種だからさ 

1 じゃあ、やるんじゃねえこんなこと、あと、あれだろ?日常会話に困ってるから使うんだろ?なんで積極的に入ってくるんだよ。話しに入ってくんじゃねえよお前みたいなやつは。 

2 はいはいたしかにね、じゃあ、日常会話で一番困るやつ第1位の対処方、丸の内OL100人に聞いた、 

1 お前だけだわ 

2 「上司からの飲みの誘い」ね、お前が上司で誘ってきて 

1 「今晩、飲みにいかないかね?」 

2 「デジャヴ?」 

1 意味わかんないよね、「部長、そんな記憶はないけども前にも私を誘ったような感覚に陥ってます?」 って聞いてんの?わけわかんねえよ! 

2 それにさ、まるでその上司と前から飲みにいきたかったみたいだよね。 

1 それにさ、じゃねえよ!こっち入ってくんな! いいかい、そもそも「デジャヴ?」って人に聞くもんじゃねえよ。自分で感じるものだから、「あなた今、デジャヴですか?」っておかしいから。 

2 あれ、なんかこの感じ、いまお前がそうやって言って、、あれ未来がわかってるというか、変な感じがする。 

1 きみデジャヴ知らんかったのかいなー!

配達員

男が伝票にサインをしている間、配達員はその伝票を見つめ続けた。 

いつも決まってこの配達員が男の住む古いアパートの底が抜けそうな錆びた階段をのぼり、
インターホンのないドアをノックし声を荒げる必要があるという現代配達の範疇を超えているといっても過言ではない仕事をするはめになっていた。 

男が荷物を受け取る理由が決まってひとつのオンラインのCD屋で買い物をするからで、そのCD屋が決まってある運送会社に依頼し、その運送会社の管轄で配属の配達員が決まっているからだろう。 

男はサインを終えると、あらかじめ下駄箱の上に用意されていたかのように置いてあった缶コーヒーを差し出した。 

しかし配達員は缶コーヒーを見ずもせずに目線は男の胸元あたりを無心で見つめるようにして「ありがとうございました」と言うと小走りで去って行った。 

その小走りは会社に教育された軽快なフットワークを表したものとはべつに、純粋に早く去るための小走りであり、「ありがとうございました」は缶コーヒーにではなく、「当社をご利用頂き」という通常の意味に加え、「確かにここにはよく配達に来るが、今回が初めてだ」と仕切り直すことでこの意味不明なやりとりに一切加担していないという意味もあった。

男も善意が無視されたとがっかりする様子もなく、それは伝票にサインするのと同じ種の行為とでもいった感じで、さらりとその差し出した缶コーヒーを元の位置へと戻したのだった。 

配達員が缶コーヒーを受け取らなかった理由はその缶の口がすでに開いていて、中身も空っぽだったからだ。 

男が差し出したのはただの「空き缶」だった。 

しかしその構図を絵に書いたのなら、それはまさしく配達をする男へのねぎらいの行為であり「缶コーヒー」でしかない。 

もちろん男が最初に缶コーヒーを差し出した5年前の夏はたしかに配達員も「ありがとうございます!」と一度はしっかりと缶コーヒーを受け取った。 

その「ありがとうございます」は「どうも!自分よくここに届けに来る者です!この町のお調子者っす!よろしくっす!」という意味が含まれていたが、その手に持った想像絶する缶コーヒーの軽さと開いた口を見て一気に困惑したのだった。 

そしてそれに間違いはないという表情で差し出す男に「こいつやべえ奴だ」と認識したのは、二度目の配達で全く同じそれを再びくらったときだった。 

コントなら「なんすか!中身ないじゃないですか!」と突っ込めばハッピーだが、実社会にはそんな処理はなかった。 

男がサインを終えると、下駄箱の上に置いてあった缶コーヒーの空き缶を差し出す、すると配達員がノーリアクションで「ありがとうございました」と小走りで去る。 

このやりとりはかれこれ5年間続いているが、一度だけ男が本当に中身の入った缶コーヒーを渡したとか渡してないとか。

坊主の合コン

私は久しぶりに新宿駅は東口を出た。 
異常なほどに多い人間に日頃の修行のかいもなくイライラとしてしまった。 
この日の幹事はもちろん東本寺の石倉だった。 
石倉はこの手の集まりをすぐに企てた。 
まずこの手の企てとは俗にいう「合コン」なのだが、我々の間では「対女」という。 
「おいっす」 
アルタ前という誰もが待ち合わせる場所で、石倉はその場を代表するかのように笑顔で手を振っていた。 
石倉は相変わらず細いスーツを着て、その坊主頭を仏教徒のヘアースタイルからイタリア人のヘアースタイルへと昇華させていた。 
「おまえお洒落してこいよ」 
石倉は上機嫌に言った。 
私は坊主の休日にありがちなカジュアルな装いだった。 
「今日、ナースだから」 
石倉はさぞ喜べというニュアンスでいやらしく言ってきた。 
「今日は何人なの?」 
「男があと一人くる、玄武寺の後とり、おれらとタメだよ」 
「ナースはどういう知り合い?」 
「座禅体験で知り合った」 
「またかよ」 
石倉は前回のスチュワーデスのときも座禅体験会で知り合ったと言っていが、たしかに我々が出会う場といえばそれくらいしかなかった。雑念クソ坊主が。 
「あ、いた」 
石倉の視線の先にいたニットキャップをかぶりでっかいジーンズを履き金色のでっかいネックレスをした男がこっちに気がつくと腰履きしたジーンズを不自由そうに小走りで向かって来た。 
その男は石倉となにか「ウィー」のような最後の語をのばしたような事を言いながら腕と腕をぶつけるような儀式のような挨拶をした。 
少なくとも仏教の世界では見た事が無かった。 
「今日、ナースでしょ?」 
その男は開口一番、私にそう言った。 
「こいつ、健次君」 
笑顔で握手を求めてきた健次君の皮膚はエグザイルにいそうな皮膚だった。 
つまり私は友達にはなれなそうだと早々と思ったのだった。 
店はビルの4階でエレベーターに乗ることになった。 
窮屈なこの空間のほかの客もこれから対女、対男をやるのだろうかと思うと何とも下品な動く箱のように思えた。 
「いやーかわいい女くるといいね」 
こともあろうに健次君はこの箱の中でまさにふさわしい一言を言った。石倉もさすがに笑みをうかべるだけだった。 
もっともこんなふうに健次君のキャラといおうか、寺のカラーが違うとでもいおうか、それは彼の日焼けした皮膚を見たらわかることだった。 
この箱の中ではどんなに仲が良かろうと、目線は現在位置を示す数字を見上げるだけだ。 
仮にここで10年ぶりの再会をはたしたとしても感情をあらわにはしない空間に思える。 
店員が我々三人を席へと案内した。 
石倉が「東本寺石倉」で予約をする理由はこのときに店員に威厳を持った接客をさせるために違いないが、キャバ嬢との合コンのときにはその女たちがなかなか席に通してもらえないという失態もあった。 
石倉も私も上着をぬぐと、さっそく無表情に座禅を組んだ。 
飲み屋の座敷とは我々のためにあるようなものなのだ。 
私が石倉とつるむのはまさにこういう部分でもあり、また石倉も趣味の合わない私をこのように誘うのはこの基本的な禅の精神の部分があるからだろう。 
背筋を丸めあぐらを組み、アイフォーンをいじりタバコを吸う健次君はもはや坊主でもなんでもないように見えた。 
この、対女で相手の登場を待っているときの座禅が一番難易度が高い。 
なんせ百山寺の紺野さん程の人間がそわそわして全然座禅に集中できてなかったというくらいだ。 
もっとも紺野さんは童貞だからしかたがないかもしれないが。 
ちなみに仏教で「童貞」はネガティブなものではなく、神の域と崇高される。 
半眼の視界にうっすらと人が見え「無」の状態から戻った。 
いまだ半眼の石倉を肘でついた。 
半眼とは文字通り、目を半開きにする座禅の作法だ。 
このとき昔はよく石倉とは「お互いまだ「無」の境地だ」と意地の張り合いのようになり、女性陣がとっくに着席しているのに半眼を続けたものだが、これはあまりに気持ちが悪いと評判が悪いために、こうして私が折れるかたちで石倉に教えるのである。 
それに反応する石倉の「無」からの帰還の瞬間のうさんくさい表情は今では愛すべきものであった。 
「こんにちは」 
コートを手にもった女が三人入ってきた。 
左から、ブス、ブス、ブス、 
私と石倉は再び半眼になった。 
意外にも健次君は仏のような顔をしていた。 
あまりにショックなのかブス専なのかはわからないが、こういうとき半眼にならない坊主がなによりである。

フォーエバーヤングジェネレーション

2009年12月19日06:19

外付けハードディスク、電子辞書、コーヒー、足の先、すっかり冷えたからこれきっかけで一年を終わりにしてもいいのだが、もっとしっくりくるタイミングがあるかもしれないといつも期待して、なかなか一年の終わりにふさわしいときを決められずに誕生日が何回かきてしまった。 
決めるもんじゃなくて自然とわかると思っているのだがそうはいかないのだろうか。 

それにしても、もう今年が終わったという人もいるだろう。 
マイハシ、マイカップ、エコブームが産んだ突然変異、一年の終わりは自分で決めるという「マイ・イヤー」は12月最後の日のカウントダウンと1月1日元旦の「あけましておめでとう」を過去のものにした。 

「今日何日?」みたいに「今日何年?」と聞けば、今は2210年だという者、まだ1968年だという者、様々だが問題はない。 

年明けが任意になり永遠の命を手に入れたと宣言する「フォーエバーヤング・ジェネレーション」と呼ばれる者も現れた。彼らは盤面が割れて何も見えない腕時計をして、いくらめくっても白紙な日めくりカレンダーを家に飾り、生えた髭は確実に剃り、体内時計も作動させないように1時間毎に軽食を取るなどして出来る限り時間の経過を示すものを排除した永続的な生活を好んだ。 
これに対極としてサンフランシスコ界隈に現れたのが「デイトリッパー」である。 
日帰り旅行者の如くマジという意味で、常に自分と向き合いその日常の中に一年の終わりを感じ取る事を信念としている。 
デイトリッパー界の重鎮、ジョン・ワンポイントは「切ったばかりの爪が思ってたより伸びていた、あけましておめでとう」と3050年、虎年を迎えた事を昨日の自身のブログで発表した。

しかし、フォーエバーヤングジェネレーションとデイトリッパーの対立は次第に深まり、フォーエバーヤングジェネレーションの若手注目株、クレイジー・メアリーの「デイトリッパーなんて、インポ野郎の集まりだわ」を発端として各地で抗争が激化した。 

次第にフォーエバーヤング、、(もうええわ)がその永続性に虚無を感じ、ストックホルムでの「一年365日宣言」で終焉を迎えた。 
結局、以後多くの人間はそれぞれ日々の中に一年の終わりを感じ取るように意識し始めたのだが自分自身でそのタイミングを決めることができないために、季節の温度や風景にたよる事となった。 

だけど、それでもいまなお「人生とは長い一日だ」と言うデイトリッパーに僕はなりたい。

エンペドクロス

まだまだ残暑が残るなか例年とおりエンペドクロスは9月の最初の月曜日に降臨した。 
中途半端な大きさの影が地上を覆った。 
上空には絵に描いたようなUFO。 
人々は着陸を見守っていた。 
地上から3メートルというところまでくると、窓から白髪の長髪の老人が真剣にUFOを操縦する姿が見えた。 
エンペドクロス自らが運転していた。 
着陸するとエンペドクロスはギアをパーキングにいれたかのような動きをするとすぐにドアを開け、まるで衝突してきた後続車につめよるかのような勢いで飛び出てきた。 
エンペドクロスは全身を白い布で覆っているような格好をしていた。 
「はい、今年も来たぞ」 
そう言ったタイミングとUFOのドアを閉める音とかぶったために聞きずらかったが、右手を挙げたそのポーズのおかげで雰囲気は伝わった。 
ここに集まっている人間はエンペドクロスフリークなわけで当然みな拍手と歓声で迎えた。 
「今回教えてやるのは、」 
人々は静まりしっかりと聞こうとした。 
「洗剤ってあるだろ?あれは実はいくら薄めたってその効果は変わりない」 
エンペドクロスは「変わりない」の部分で言うべき事が終わりとわからすために、言ったあとに「どうだ?」という表情で180度を右から左へとゆっくり見渡す仕草をした。 
「おい、聞いたか?」 
「まじか」 
「あらま」 
エンペドクロスはその情報にざわざわする人々を満足そうに見ていた。 
「たしかに、私、洗剤は薄めて使ってるけど、全然変わりないわ」 
「私も」 
「私も」 
ご婦人方が恥をすて自らの体験談を言い合った。 
後方のカフェの前あたりの男がひとり険しい表情をしていた。男は洗剤屋だった。 
「もう洗剤買わないわ!私、おもいきり薄めるんだから」 
一人のご夫人が言った。 
「私も」 
「私も」 
人々は歓喜でわいわいしていた。 
「おい、このじじい!そんなこと言いやがったら商売になんねえだろうが!」 
洗剤屋はエンペドクロスに向かって叫んだ。 
わいわいしていたのが止んだ。 
エンペドクロスは相変わらずにやにやしていた。 
「もうひとつ教えてやろう、カルピスもまた同じだ。」 
エンペドクロスがそう言うと人々はよく考えもせずに大喜びした。 
エンペドクロスは満足そうにあたりを見回した。 
「そんなことないわ」 
若い女の声が響いた。 
長沢まさみだった。 
「みんな、よく考えて、カルピスを薄めすぎたら当然、味が薄くなるでしょ?」 
人々はたしかにそうだという反応をみせた。 
「そこからじゃなくて」 
エンペドクロスはしたり顔でそう言うとUFOに乗り込んだ。 
あの去り際の一言の後、静まり返ったがエンペドクロスがスベったとは私は思わない。みんなあのCMを知らなかっただけだ。

私は自転車泥棒の容疑者(終身)です。

中野駅前から早稲田通りを高円寺方面へ歩いてると警察官の自転車に対する執拗なまでの性癖が健全な市民のつかの間の自由時間を奪っている様子をもう3カ所以上は通り過ぎた。 
彼らは何の変哲もない自転車に乗るこれまた何の変哲もない若い男を当たり前のようにサドルから降ろさせた。 
そして舐め回すように自転車を物色し、見えずらいところは懐中電灯を使ってまで調べ、最後にその製造ナンバーを無線で読み上げ、すぐさま独自のネットワークでその自転車がまだ購入可能かどうかをリサーチしてはeBayのオークションでだって落札するつもりなのだ。 
彼らのおめがねに適う自転車かどうかが問題だった。 
だから流通しまくっている自転車に乗っていれば止められることはないだろう。 
お母さんがかつて乗っていた自転車なんて気をつけろ、ヴィンテージものだ。 
それにしても昨晩は多かった。 
誰かが「大事な自転車」をなくしたのだろうか。 
大事な誰かがしょうもない自転車をなくしたのかもしれない。 
人々に平和の平等な分配のために同じく配られる容疑。 
それが公共の福祉aka自転車泥棒の容疑だ。 
そういうわけで我々には絶えず「自転車泥棒の容疑」がかかっている。 
生まれた瞬間から。



Aこないだ自転車乗ってたら警察官に止められてさ

Bおお、どうした

Aなんかさ、自転車にすごい興味ある警察官みたいでさ
もう舐め回すように見てさ、仲間に型番みたいなの教えてさ、あれ今度同じの買うつもりですよ

B違うよ、本当にその自転車の持ち主かうかを調べてるんだよ

Aえ?どういうこと?おれのでしょ、どういうこと?

Bそうやってみんなの自転車を調べてんだよ

Aみんなに自転車泥棒の容疑がかかってるってこと?

B大げさだけどな、

A一億総自転車泥棒の容疑者だ

Bまあ、そういうことになるけど!

Aそんなふうに容疑かけたらきりないけどね

Bなんで?

A例えばその自転車乗ってるときに着てたダウンジャケットもおれのかどうか調べないと

Bいや、それはいいんじゃないのやらなくて、ダウンジャケット盗まれることないもん

Aないことないでしょ、

Bまあ、どこかでちょっと脱いだときとか、

Aそうそう、ちょっとコンビニの前にとめといたらさ

Bとめとくってなんだよ、ダウンジャケットとめとくなんていわない

Aああ、ダウンしといたときに

Bなんだそれ聞いた事ないわ、ダウンジャケットだからダウンて
いやなんでもいいけど、コンビニに着て入っていいから

A盗難ジャケットですよ

B新しい言葉つくるな

Aあと犬とかも

Bは?

A散歩させてる犬も持ち主かどうか調べないと

Bはたして人の犬盗んで散歩させる人なんているのかね?

Aちょっと歩いてて便利だからって持っていっちゃってね

B便利ってことはないでしょ、むしろ面倒でしょ

Aいや、引っ張ってもらえるからね

Bあれ、別に犬にひっぱってもらってラクってことないからね!
というか自転車は実際に盗難が多いから調べてるんですよ

Aというか、盗まれてる奴に腹立ってきたね、そいつらが盗まれなければ、おれも容疑者にならずに済むわけじゃん
だから逆にするべきだね

B逆?

A自転車盗られたやつを捕まえるんですよ

Bなんでだよ!いいかげんにしろ

ゲスアイムフォーリンダウンの悲劇

「おまえさんらは何も知らんのだよ、」

アルフレッドバイアルフレッドは強情なドーソン知事に一冊のノートを読み始めた。



オスのアオイロアップテンポの成虫がメスのアオイロアップテンポの興味を引き寄せていた。
そこへほかのアオイロアップテンポのオスがやってきた。
二匹のアオイロアップテンポのオスによる激しい舞いはその鱗粉で地を黄色く染めた。
その鱗粉のせいで人生を180度狂わせられたのは地を這うゲスアイムフォーリンダウンの幼虫であった。
黄色い鱗粉はゲスアイムフォーリンダウンのせっかくの土色の擬態と化した体を、鮮やかな黄色に染め外敵にその存在をわざわざ教えたのだった。
さっそく空を飛ぶ一匹のアテンダントプリーズが黄色く地を這うものを発見し、急降下した。
ところがアテンダントプリーズはそのくちばしでつつく事なくしばらく黄色く動くものの様子を伺っていた。
ゲスアイムフォーリンダウンの幼虫には「面白い話し」が役数千個あるといわれており、アテンダントプリーズはすっかり耳を傾けていたのであった。
そしてこのゲスアイムフォーリンダウンの幼虫の後をコソコソと追いかける昆虫がいた。
ゴミゾウキンである。
ゴミゾウキンはこうやってゲスアイムフォーリンダウンの後を追いかけ、その話しを聞き、後でさぞ自分の話しかのようにほかの昆虫に聞かせるのであった。
「するとその一回も跳ねたことのないバッタがこう言ったんだ、僕はオニオングラタン、、」
ゲスアイムフォーリンダウンはあっけなく老人の振り上げた5番アイアンでぶちのめされてしまった。



アルフレッドバイアルフレッドはノートを閉じた。

「ゴルフ場の建設に反対する私の気持ちがわかってくれたかね。」

翌日から工事は始まった。

2013年10月30日水曜日

地球


義男は今日もどこへ行くでもなく、「今日」とか「一日」という概念があるのかもわかりませんが、ウロウロ、ウロウロと地を這いつくばったり穴の中に入ったりしていました。
しかしそれは義男の良い動きでした。
義男をよく知るほかの生き物やいつも空から見守ってる太陽の剛志からすれば
「彼はいまやれることをやっている、コースを切っている」
とそれ相応に高く評価するでしょう。

義男の目の前をタケルが歩いていました。
もっとも義男は目の前の黒い動くものを見て「タケル」だと思うことも、自分と同じ生物だという認識すらなかったでしょう。
もちろん昆虫学者が言うには蟻はお互いを認識し合っているなどと言うかもしれませんが、こと義男に関してはそうではないのです。
バカなのです。

タケルの後をついて歩く義男の後ろを、俊介、彩花、宗佑が次々と列に参加しました。
三匹は義男とタメです。俊介について疑問に感じる方のために言っておくと、俊介は早生まれです。そんな古い友人が三人も揃ったのにもかかわらず義男は決して後ろを振り返ったりすることはありませんでした。
それは真面目に仕事をしてる感じを醸し出して誰かに評価してもらおうといった考えがあってのことではありません。
そういう個性なのです。

義男たちは5時間程ひたすらまっすぐ歩き続けました。
人間の子供「孝之」はおばあさんにもらったお金でお菓子を買いにいくところでした。
孝之の気まぐれに歩くコースは不幸にも義男の列に近づいていました。
孝之の靴の底が上空を覆い、義男の周りが急に暗くなりました。
それでも義男は上空を見上げたりはしませんでした。
学者は「蟻は体の構造上、上を向くことができない」と、こちらの勉強不足にイライラしながら言うかもしれませんが、義男のそれは「天気なんて気にしない」という男気のアピールにすぎないのです。
そういう個性なのです。

孝之の足はすっかり地面についてしまいました。
義男たちの体はとてつもない圧力により潰されてしまいました。
痛みやこの世に対する未練はあったのでしょうか。
走馬灯のように思い出が頭の中を駆け巡ったのでしょうか。
そこは昆虫学者様に是非聞きたいところです。

義男たちの悲惨な事故現場を堂々と踏みながら秀隆や剛志が悠然と歩いていきました。
何が起きても屈しない、悲しんでなんかいられないおれたちは前に進むだけだ。
とでもいわんばかりでした。 
太陽の剛志もいつもとかわらずに辺りをオレンジ色に染め地平線に沈んでいきました。

「代わりならいくらでもいる」

剛志は太陽が沈みきる間際に言いました。

剛志の発言を聞き取れる生き物はいませんでした。