さっそく私はコールマンのドームテントを片手に新しい学校のグランドを見ていた。
キャプテンスタッグの青いテントが見えた。
私はすぐに、チームの「サッカー」うんぬんよりも、まずそのテントの「はり」がなっていなかったことに絶望した。
「ちょっといいかね」
私は準備運動中の部員の輪に割って入った。
テントに近づくとフライシートの周りにロープさえついていなかったことに気がついた。
「このテントをはったのは誰だね?」
学生たちは突然の侵入者にとまどっていた。
「それはいつも練習前に僕ら全員でやりますけど」
キーパーにうってつけな小デブが口を尖らせて言った。
「フライシートが全然はれてないじゃないか」
何を言ってるのかさっぱりわからないという様子だった。
「別にキャンプやろうってわけじゃないんだらいいでしょ、おじさん」
短い金髪がスパイクの紐を結びながら言った。
「私がコーチになったからにはそんないい加減な事は許さんぞ」
私はずっと持っていたテントをようやく地面に放り投げた。
乾いたグランドから砂埃が舞った。
「よし、金髪、これを組み立ててみろ」
金髪はテント本体を広げると、ポールを手早く一本に組み立てるとテントの対角線に配置し、あっというまに最後にフライシート張りまでやってのけた。
「ペグはどうします?」
「よし、これでいい、それから、お前らのシュートの弾道が少し高すぎる、もっと低く速い球を意識しろ。そんなんじゃテントの中に入らんぞ」
私は内心、金髪のスキルに驚いていた。
「さっそくやってますな荒井君、どうだね?」
いつのまにか校長が立っていた。
「まったく、なってないですよ」
「はっはっはっ、厳しくやっちゃってくれ」
「あの金髪の彼はなんですか?」
「ああ、やはり気がついたかね」
「あれほど手早くコールマンのドームテントをたった1人で組み立てる高校生なんて見た事がないですよ。」
「彼は小さい頃から両親が共働きでね、テントを組み立てては日が暮れるまでテントの中にいたらしいんだよ」
「なるほどテントは友達ってわけですか。」
私はこのチームなら日本一もまんざらではないと思った。
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